半月と硝子のブイ

so-net 『半月と硝子のブイ』の再開

『モーターサイクル・ダイヤリーズ』〜河を渡る

俺はどうする?
俺はゆくのか? それとも此処に留まるのか?
俺はどうする?

其の河を渡るのか? それとも渡らないのか? 

 

自問する為にだろうか…盤を購入してから回数は忘れた位に観た。

映像に満ちる風景がチャランゴの音色に導かれ、ヤケに沁みる。

あの頃、幼い娘にも観せたら不思議と飽きずに最後まで観ていたっけ。
おかげで娘は海外の田舎に一人旅する人間に成ってしまった。

あれからワタシもまた留まらずゆき、さすらったもんだ。
不味い河も渡りそうになり、海もを渡って島で働いたり、戦場の様な巨大建設現場で働いたり、かなり彷徨ったもんだ。
果て、現在ここに来て早14年だ。

 

ここに居て、相変わらず河を泳いでいる。
泳ぎながら、"見えると信じている"んだろうな…見えない対岸を未だ未だ探しているみたいだ。

モーターサイクルの前面に貼り付けられた小さな旗の様に、胸中では轟々とした風を感じている。

 

 

周りで最近、毎日立て続けに大変な事が起こる。
凹む。続くと流石に漢方系の胃薬が必要だ。
でも以前とは違い、"大丈夫だ、どうにかなるって" と思えるのは、何故だろう…

 

それはきっと、こんな映画や、どんなに忙しくても地味に続けている絵画創作や、大好きな音楽が聴けるからだ。
そして生活拠点を街から離したからだ。
人間より、獣や虫や、突然のスコールや、季節毎異なる風を、日々感じる仕事をしているからだ。

 

山の仕事は一言で辛い。
10代後半から、実に色んな仕事に関わってきたが、そりゃどんな仕事にも辛さはあった。でも、辛さにも色々ある。
山は一年中、1日の気温差が凄い。とにかく湿度との闘いが凄い。爽やかな1日など一年に数回感じられたらいい位だ。
そこに早朝から夕方まで居る。居るだけで大変なのだ。だから就業しても一年で辞める者が多い。
そして瞬発可能な筋力と、何より持久力が要る。相手が自然で広大だから、緻密な計画性と技術の工夫も求められる。
毎日の筋肉ストレッチや、休日にもある程度の筋トレ負荷は欠かせない。
摂取カロリーやエネルギーは常に意識していないとならない。でないとフラついて思わぬ怪我に繋がる。自身も何回も縫う怪我をしてきた。
これらは仕事をする現場が、平均斜度30〜50°なのだから、従事すると決めた以上は致し方無い事なのだ。

 

なのに賃金はかなり安い。
だから金は貯まらない。
なのに〜なーぜー♪身を粉にして日々脱水症状手前まで汗して働いているんだろ…?


それはこんな素敵な映画のせいもあるだろうと思う訳だ。
私なんて、この映画の主人公達とは異なり足元にも及ばないけれど、
決して一番目に金や名声を目指してではないし、一位や優勝やヒット作目指してじゃあないんだ。もう、そんなものに必死に足掻くのは辞めたんだ。

コトバにしたらば烏滸がましいけれど、謂わば川や海の為であり、一生会わないだろう他人様皆様や魚や獣や、自分が居なくなった先の未来の為だ。其処で未だ我が娘は生きるんだし。本気でそう考えて、社会の端っこで黙って担っている。
そして何よりも、それこそが自分自身の為なのだから。結局そこがワタシの原動力なのだから。


だから、ワタシは人生後半に来て息が出来る様になった気がする。

 

 

本作は自分にとっては、実際のストーリーや登場人物ではなくて、イメージや象徴として非常にエポックな(或る意味では)青春映画だ。

 

ちなみにグスターボ奏でる(たしかチャランゴの)サントラも素晴らしい♪
ジャケット写真も懐かしいECMみたいな風合いが素晴らしい。

 

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